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with Creators 矢川健吾さんインタビュー

【Interview】映し出される”画”にこだわった作品を作り続ける。監督/カメラマンの矢川健吾さんインタビュー

【Interview】映し出される”画”にこだわった作品を作り続ける。監督/カメラマンの矢川健吾さんインタビュー

「今34歳の僕が何をみているのか、東京で何が起こっているのか、それを意識的に提示できるように撮りたい。」

そう話してくれたのは、監督としてだけでなく、ビデオグラファーとして自らカメラを回すなど、”撮影にこだわるディレクター”として活躍されている、矢川健吾さん。

カメラワークにこだわった映画やCM、MVなど、幅広い作品作りをされています。

自身の映画代表作といえる『穴を掘る』では、多くの海外の映画祭へ招待されました。

その映画祭での経験をきっかけに、意識が変わり、今の日本で自分が何を見ているかを作品に映したいと考えるようになったとのこと。

そんな矢川さんが作品作りを始めたきっかけや、作品に対するこだわり、そしてこれからの展望について伺いました。

No.1経歴とプロフィール、主な実績

矢川健吾さん

https://www.kengoyagawa.com/

【経歴とプロフィール】

1987年 神奈川県生まれ。

高校3年生の時に、タイへ留学。僧侶生活をしながら、高校生活を送る。

帰国後、多摩美術大学 映像演劇学科へ入学。卒業後には、東京藝術大学大学院にて映画を専攻し、撮影技術を学ぶ。

中退後に、小笠原にあるホテルで住み込みながら、映画「人に非ず」を撮影。

撮影後は、CM制作会社にてPMとして様々な制作に従事。

フリーランスとして独立した後は、講談社の映像制作などに携わる。

2019年に株式会社GORILLA PICTURESを設立。

【受賞・入選実績】

2014年 監督作『人に非ず』

・ベルリン国際映画祭 HONORABLE MENTION AWARD受賞

・ぴあフィルムフェスティバル 審査員特別賞受賞

2018年 監督作『穴を掘る』

・ボゴタ国際短編映画祭 アカデミー賞候補作品ノミネート

・ナンシー国際映画祭 入選

・ブラウンシュヴァイク国際映画祭 招待作品選出

・ベロオリゾンテ国際映画祭 入選

・ゆうばりファンタスティック国際映画祭 入賞

No.2「自分の作品を作りたい」という思いから作品づくりへ

様々なジャンルの作品に携わる矢川さんですが、大きなくくりでの“作品作り”を始めたのは幼少期。

イラストレーターとデザイナーだった両親の影響を受け、自分も「何かを作る人になりたい」と思っていたそうです。

中でも、絵を描くのが好きで、高校生の頃まで画家を目指していたとのこと。

小さい頃から、創作という場に触れていたのですね。

タイへの留学、そして僧侶生活を経験

そんな中、”大学受験を先送りにしたい”という理由で、交換留学生としてタイへ留学。

1年半の留学経験のうち、半年間は僧侶として修業をしたというユニークなプロフィールに惹かれ、タイへの留学について詳しく尋ねてみました。

矢川「とりあえず、どこでもいいから行きたいと留学制度の試験を受けたら、行き先がタイに決まりました。

僧侶生活を始めたのは、タイの人たちが宗教に対してどう向き合っているのかということに興味が出てきたからです。

タイではお坊さんの社会的地位が高く、社会人や学生でも2週間から1ヵ月くらいお坊さんとして修行して、社会に戻ってくるというような風習があるんです。

それを体験してみたいと思いました。」

高校生が異国での学校生活を送る。

それだけでも大変そうですが、半年間も僧侶として修行された矢川さん。

しかも、野生のトラなどの動物が出てくるような森の中で、がっつり修行されたようです。

矢川「森の中で研ぎ澄まされていく感覚が面白かったですね。

普段、霊感などは信じていないんですけど、見えないものが見えているような感覚になりました。

日本に帰ってきたらすぐなくなっちゃったんですが(笑)」

ただ”体験”という言葉では収まり切らないような、貴重な体験をされたんですね。

その経験が、今の作品作りに生きている、繋がっているところはあるのでしょうか。

矢川「今の仕事に影響があるとしたら、タイに留学してから突然、絵が描けなくなったことでしょうか。

描いても楽しくない、何を描いたらいいのか、どうやって描けばいいのかが分からなくなってしまいました。」

絵が描けなくなり、写真で記録するように

タイに留学したころから、絵がなぜか描けなくなってしまったとのこと。

それがどのように今のお仕事につながっているのでしょうか。

矢川「それでも『自分の作品を作りたい』という気持ちは変わらなかったので、『絵が描けないのなら写真を撮ろう、撮って記録したい。』と思うようになりました。

タイでもそうですし、日本に帰ってきてからも同じ気持ちです。」

『自分の作品を作りたい。』という幼少期からの思いは消えなかったんですね。

その後、矢川さんは多摩美術大学 映像演劇学科へ進学。

この科へ進んだのも、写真がきっかけになったようです。

矢川「大学も、写真から入った感じですね。

暗室に入り浸っているような大学生活でした。

映像制作についても学んだのですが、教授がモダンアートだったり、フィルムを使って作品制作をするような方だったので、僕もその影響が大きく、まずは映画もフィルムで製作していました。」

“自分の”作品を撮りたいという思いから、小笠原へ

監督としてだけではなく、カメラマンとしても活躍されている矢川さん。

カメラマンとしての技術も、大学で学ばれたのでしょうか。

矢川「撮影技術は大学よりも、その後進学した大学院で、カメラマンの柳島克己さんからいろいろ教わりました。

大学院は結果として中退してしまったんですけど、その技術が今に役立っていると思っています。」

撮影技術は、大学院で本格的に学ばれたとのこと。

それでも中退することを選んだのは何故だったのでしょう?

矢川「カメラマンとして作品に携わっていたのですが、映画って完成すると“監督のものになる”、という感じがしたからです。

スタッフとして、あんなに頑張ったのに最終的に監督のものになってしまう。

それが僕の中では、不完全燃焼に終わってしまって、『僕も自分の作品をちゃんと作りたいな』と思ったんです。」

自分の作品が作りたいという思い。

芯がぶれない矢川さんの強さを感じる経歴です。

大学院を中退後、向かった先は小笠原。

またどうして小笠原へ?

矢川「母の故郷が小笠原ということもあり、ルーツを探るとともに、映画を撮りたいなと思って。

小笠原のホテルに住み込みで働きながら、そのホテルをロケ地として、1本映画を撮影したんです。」

こうして撮影されたのが、映画『人に非ず』(2014年)。

脚本、監督、撮影、編集をすべて矢川さんが担当した映画作品。

美しい島の自然と「ホテルホライズン」を舞台に繰り広げられる、人間ドラマを描いたストーリー。

ベルリン国際映画祭 HONORABLE MENTION AWARD入賞、PFFアワード2014 審査員特別賞受賞作品。

CM制作会社で、プロのやり方を学ぶ

そのあとに、CM制作会社へ勤務されたのはどのような経緯があったのでしょうか?

矢川「小笠原から1年後に帰ってきて、仕事しないと…と思い、CM制作プロダクションへ入りました。

知り合いから少数精鋭でやっているところがあると紹介されて、応募したのがきっかけです。」

仕事をしようと探した結果、たまたま応募した先がCM制作会社だったのですね。

矢川「そこでは第一線で活躍する方たちのコミュニケーションスキルや、プリプロからポスプロまでのワークフローに加え、一連の工程に携わることであらゆる職種のプロフェッショナルの仕事を学びました。

こうやってCMが作られるんだ、と。

結果的にそこでPMとして学んだことが、今に生きていますね。」

その後独立してフリーランスとして活動されるわけですが、たまたま入った会社でありながら、プロのやり方をPMとして学ばれた経験は大きかったようですね。

何より、幼少期から「自分の作品を作る」という思いが強く、様々な場所でいろんなことに興味を持ち、吸収し、学んでいく。

その一貫した姿勢が、マルチに活躍している今の矢川さんを作り上げてきたのだなと思いました。

No.3思い浮かんだ「撮りたい画」を撮る

映画、CM、MVなど携わる作品も様々ながら、矢川さんは“撮影ができるディレクター”として、作品への携わり方も様々。

そんなマルチな作品作りを続ける中での、ご自身の作品へのこだわり、思いについて伺ってみました。

矢川「最近は撮影もできて、現場も仕切れるっていう人にニーズが高まっていると思います。

機材がコンパクトになってきたというのと、動画の需要も増えて、一個一個の現場がコンパクトになっている気がしますね。」

様々な媒体で、自由に動画が見られ、消費されるようになり、それに携わる人の働き方に変化が出てきたんですね。

そんな撮影現場もコンパクトがなるとともに、低予算でもハイクオリティなものが求められるようになってきたようです。

矢川さんにとって、限られた予算の中でクオリティを高めるコツのようなものはあるのでしょうか。

矢川「スタッフィングが大切だと思っています。

最初に案件の内容を聞いた時に、スタッフの全体図を頭に浮かべて、『この案件ならあの人がやったらきっとうまくいく、良いものができるだろうな』などと考えるんです。

僕も自分でやれるところはやるけれど、得意不得意はあるので、お願いしたい人をまず考えます。」

それぞれのスタッフが得意なところを担当してもらうことで、限られた時間、予算の中でクオリティを高めているのですね。

スタッフの得意なところを把握し、信頼しているからこそできる、スタッフィングですね。

作品作りの中で楽しいと感じる部分はどのような時でしょうか?

矢川「楽しいのは圧倒的に現場です。

逆に編集とかポスプロとかは苦手で、完全に現場主義というか、現場が終わったら早く次の現場に入りたい!と思うタイプです。

色々なことが目の前で動くのが楽しいんですよね。

やらないといけないことはたくさんありますが、それも楽しめるタイプです。」

目まぐるしく、いろんなことが起きる忙しいイメージの撮影現場ですが、その空気感も好きなんですね。

撮りたいカットにこだわる作品づくり

撮影において、こだわっている部分はどんなところでしょうか。

矢川「僕の強みは“画作り”です。

撮影技術とかカメラワークは、僕の中で他の人と一線を画したいと思っている部分です。

脚本の段階から、『この画が撮りたい』と思うものが浮かぶことが多いので、僕はその画やカットを優先して、撮影したいと思って撮っています。」

早い段階で、「これを撮りたい!」と思うカットや絵が頭の中に浮かび、その浮かんだものを優先し、撮影に入るようです。

矢川さんの作品を見る際には、そのこだわった画やカットにも注目ですね。

映画以外の作品においては、これまで女性誌やメンズファッション誌などの撮影の経験が多いため、人物を撮ることに慣れているとのこと。

また、ドラマ仕立てのMVや広告などの案件が得意だとお話ししてくれました。

No.4代表作は『穴を掘る』。招待された海外の映画祭で芽生えた意識とは

これまでの作品の中で、自身のターニングポイントになるような作品はあるか、尋ねてみました。

矢川「ターニングポイントというと、2017年に撮影した、『穴を掘る』ですね。

短編映画ですが、大勢のキャストさんに関わっていただいたのと、僕の想像を超えて色んな所で上映させていただきました。

海外の映画祭にも招待されるなど、いい経験をさせていただいた作品です。」

短編映画「穴を掘る」(2017年)。

自身の代表作ともいえる作品。

この作品以降、矢川監督=『穴を掘る』の人、などと言われることもあり、認知してもらえるきっかけにもなったとのこと。

招待された海外の映画祭では、それまでの意識が変わる経験をしたそうです。

矢川「海外の映画祭では、Q&Aの時間に、日本と比にならないくらい、すごい勢いで手が挙がるんですよ。

しかも、びっくりするような角度から質問が来て、監督の僕自身でも『そんなところ映っていましたか?』と思うような質問が来る。

めちゃくちゃ細部まで見てくれていて、そこから何かを発見しようという意識の高い人たちが、海外の映画祭では多いなと感じました。」

視点がとても鋭いんですね。

矢川「だから、視点がぼんやりした作品を持って行ってはダメだと思いました。

日本の東京に住んでいる34歳の男が、今何を見ているのか、どういう問題にぶち当たっているのか、東京では何が起きているのかなどを、しっかりと提示できる作品でないと、海外の方のセンサーに引っかからない気がして。

それからは映画に関しては、”海外の人に届ける”っていう意識をするようになりました。」

矢川さんが今日本で等身大で見ているもの、感じていることを海外の人へ届くように。

海外の映画祭に出席し、直接海外の方の視点がどういうところに向いているのかを知ったことで、芽生えた意識だそうです。

オスカーにノミネートされかけた?!

この「穴を掘る」という作品は、「オスカーにノミネートされかけた」と、Twitterに呟かれていたのですが、どういうことなのでしょう?

矢川「コロンビアで一番大きな映画祭である、ボゴタ国際映画祭の短編部門にノミネートされたんですけど、そこのノミネート作品のうちの1本がオスカーに行けるよという話でした。

もしかしたら、奇跡が起こるかも?と思いました。

ただ、その発表の日、飛行機チケットを取り間違えて、行けなかったんですよね(笑)

その時点で、奇跡は起こりませんでした(笑)」

この時は残念でしたが、いつかノミネートのニュースが聞けること、楽しみにしています!

No.5今のこの時代を切り取った作品を撮りたい

2年前に『脳天気』という映画を撮影してから、映画を撮影できずにいるという矢川さん。

今後撮影するとしたら、どのような作品が撮りたいか、尋ねました。

高校時代住んでいたタイで映画を撮りたい

矢川「1つコロナ禍になる前に考えていた企画が、自分が住んでいたタイで映画を撮りたいなというのがあって。

第二次世界大戦時に、日本軍がタイを北上し、インドに入っていくインパール作戦の実話に、フィクションを混ぜた話です。

ジャングルの中をひたすら重い物資を運び続ける過酷な状況の中、ほとんどの兵士はただ命令されるがまま運んでいるんですが、中に昆虫や動物が大好きな男がいて、その状況を楽しんでいる。

そんな人間たちの対比を描きたいなと思ったんです。

時代は違いますけど、今の時代の空気感みたいなのも描けるかなぁと。」

戦時中と現代で、時代によって許されること、そうではないことは違うけれど、そこを生きている人には共通点がある。

映画を通して、それを感じ取れるなんて、面白そうですね。

矢川「でも、随分予算がかかるものなんで(笑)

時代設定だけでも予算がかかるし、海外ロケが必要ですし。

でも、いつかやりたいです。死ぬまでに撮りたいなと思っています。」

矢川さんが実際住み、修業したタイの自然の中での撮影。

矢川さんにしか描けない作品だと思うので、ぜひ期待したいです。

今のコロナ時代を少しでも切り取る、それが目標

タイでの撮影は、今は難しいかもしれませんが、その他にも作りたい作品はありますか?

矢川「あとは、コロナ禍になってから、ある意味、現実がフィクションみたいになっているじゃないですか。

みんなで自粛したり、リモートワークが普及したり、世の中や制度、生活環境が信じられないスピードで変化して、これまで想像できなかったことが現実になって。

しかも、それが世界共通の課題で、世界のあらゆる場所で同じ問題に取り組んでいる。

不謹慎ですけど、ある意味面白いなと。

僕としてはその今の日本の抱えている空気感とか問題とかを小さじ一杯でも切り取りたいなと思っています。

どこを切り取ったらいいのか悩んでいますが、それを見つけて映画化するのが目標です。」

日本はもちろん、世界中でいろんなことが目まぐるしく変わっていく時代。

これもまた、矢川さんにとっては面白く感じ、絵や写真で残すように、作品に残したいと思う題材なんですね。

そう思える発想も素敵だなと感じましたし、いつかみんなでその作品を懐かしみながら見たいですね。

映画化、期待しています!

No.6まとめ

高校時代のタイでの話から、自身の作品作りへの思いなど、いろいろな興味深いお話を聞かせていただきました。

どの質問にもすぐに、しっかりと答えてくださり、矢川さんの作品に対する熱い思いを感じました。

特に考案中の作品については、矢川さん自身もとても楽しそうに語られていて、聞いているこちらも頭に予告編が浮かんでくるようで、ワクワクさせていただきました!

カメラワークに自信があり、画にこだわる作品作りを続ける矢川さん。

これからの作品にも、期待大ですね。

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